教育学学位プログラム(後期)

研究室紹介

教育方法学

教育方法学

担当教員

樋口 直宏 ひぐち なおひろ HIGUCHI Naohiro

専門研究領域の沿革

教育方法学領域は、1949年の東京教育大学発足当初より碩学篠原助市教授の高弟の一人山極真衛教授が担当した「教育方法学講座」に遡る。同講座は、東京教育大学の筑波大学移行後、「学習指導学分野」として引き継がれ、現研究領域に継承された。山極教授以降、教育方法学講座および学習指導分野の歴代主任教授は、エッガースドルファー陶冶論研究者冨田竹三郎教授、生活指導研究者井坂行男教授、ヴィルマン陶冶論等ドイツ教授学研究者長谷川栄教授、デューイ研究者佐々木俊介教授、クラフキ教授論研究者渡邊光雄教授、教師教育・質的研究法研究者平山満義教授である。現在は、樋口直宏教授が授業分析および思考力育成に関する研究とともに、大学院生に対する指導を行っている。

在校生とその研究テーマ

3年:細矢智寛 自己調整学習指導の理論と実践
3年:日高 淳 専門学校における職業教育とキャリア教育に関する研究
3年:小林優子 高校生の探究活動における「科学の本質(Nature of Science)」の理解に関する研究
3年:村井輝久 大伴茂の教育科学研究における教育診断構想に関する研究
3年:アーロン・メナ 初等教育における批判的思考力育成に寄与する視聴覚教材の開発に関する研究
3年:平岡秀美 ドイツの倫理・道徳教育科目をめぐる教授学的論争に関する研究
3年:藤井真吾 教科指導における教師の実践的知識に関する研究
3年:古賀竣也 批判的思考を基盤とした統計的リテラシーの育成
3年:赤塚祐哉 英語授業における「国際バカロレア」を援用した批判的思考育成に関する研究
1年:仲条幸一 幼児期におけるICT を活用したサウンドエデュケーション

入学者出身大学と勤務先

(1) 入学者出身大学:筑波大学、千葉大学、東京学芸大学、奈良教育大学、北海道教育大学、創価大学、常磐大学、日本大学、文教大学、明治大学、立正大学、流通経済大学、早稲田大学、他。

(2) 勤務先・職:筑波大学、茨城大学、岩手大学、香川大学、京都教育大学、宮崎大学、育英大学、国士舘大学、女子美術大学、聖徳大学、東京成徳大学、東洋大学、長野大学、名古屋学院大学、日本大学、武蔵丘短期大学、他。

博士学位取得者

(1) 論文博士


氏名

研究テーマ

取得年

指導教員

庄司他人男

アメリカにおけるヘルバルト主義教授理論の受容と展開

1983

長谷川栄

楊玉珍

中国における幼稚園教育の導入と展開 -清朝末期から民国期まで-

1991

長谷川栄

渡邊光雄

W.クラフキの教授学構想に基づく「二面的開示」に関する研究

1992

長谷川栄

大河原清

教育における非言語コミュニケーションの研究

1994

長谷川栄

平山満義

「エスノ・認知的パラダイム」による教師効果研究

1995

長谷川栄

小笠原喜康

Peirce記号論によるVisual記号の概念構成とその教育的意義

2001

渡邊光雄

助川晃洋

ドイツにおける「教育的関係」論の展開

2001

渡邊光雄

樋口直宏

批判的思考指導論に関する研究
-アメリカにおける思考技能指導の方法と日本の授業実践への適用-

2012

吉田武男

桂直美

芸術教育の授業構成論に関する研究
-デューイの芸術哲学を軸とした理論と実践-

2017

大髙泉

(2)課程博士

氏名

研究テーマ

取得年

指導教員

田中怜

1970年代以降のドイツにおける改革教育的な学校改革と授業実践
-学校と生活の接続問題をめぐる授業の構成理論-

2020

樋口直宏



在校生の声(教育方法学研究室)

教育方法学は、授業を主要な研究対象とし教育の方法を中心的に研究している学問分野です。教育方法学という名前からは、効果的に教える方法について探究する学問であると思われるかもしれませんが、それだけではありません。教育方法学では、教授と学習に係るあらゆることが研究対象となります。例えば、社会の歴史的状況と教育方法や教育内容との関係、教師や子どもの認知に関する特質と教育との関係など、その対象は多岐にわたります。上に記されている「在校生とその研究テーマ」や「博士学位取得者」の「研究テーマ」をご覧いただくと、そのテーマの多様さを感じてもらえるのではないでしょうか。

特に、筑波大学の教育方法学研究室では、多様なテーマで研究が行われています。そのため、週に一度行われるゼミでは、新しい知識を得ることができるのはもちろんですが、様々な側面から自身の研究を捉え直す良い機会になります。また、院生同士の議論も学年を超えて活発に行われており、議論の中で自分にはなかった視点などに気づかされることが度々あります。このように、それぞれの研究は全く異なるように見えても、それぞれが刺激を受け、影響を与え合いながら研究が進められています。例えば、私の研究対象は現在日本の高等学校で行われている探究活動ですが、他の院生との議論の中で明治時代や大正時代の教育と比較をしたり、ドイツで論じられていた内容と親和性を見出したりと、時代や国境を超えて自身のテーマが広がるのを感じています。このような環境は、自身の研究を発展させていくことはもちろん、教育方法学さらには教育学について考察する上で大きな財産になっていると感じております。

(小林 優子 博士後期課程3年)

OB・OGの声(教育方法学研究室)

筑波大学の教育方法学研究室は、日本で最も歴史の長い伝統ある教育方法学の研究拠点です。日本の教育学をリードする多くの研究者を輩出してきました。とはいえ、ここには堅苦しいシガラミや因襲、厳しい上下関係はまったくありません。むしろ、個々人の研究関心を最大限に尊重してくれる「自由」と「多様性」こそが、教育方法学研究室に長年息づく精神(Geist)である、と私自身は考えています。

具体例を出しましょう。私の研究関心は、「学校の勉強が生活に何の役に立つのか」ということにあります。これは大学院に入る前からの自分自身の一貫した疑問でした。教育方法学研究室の「自由」の気風は、この研究関心を博士論文の提出に至るまで縦横無尽に伸ばしてくれました。私の研究対象はドイツですが、筑波大学に保管された国内屈指の豊富な資料と充実したレファレンスサービスを使えば、研究室にいても世界中の研究成果にアクセスすることができます。また博士後期課程のときには研究室を飛び出し、1年間ドイツのベルリンに交換留学をする機会もありました。まさに自分の興味と関心の赴くままに、勉強や学会発表、論文執筆をすることができました。

もちろん研究はひとりで全てできるわけではありません。指導教員をはじめ、大学院での先生方からいただいた指導は、研究の方向性を修正したり行き詰まりをブレイクスルーするうえで必要不可欠です。また領域の垣根を越えた先輩や同期、後輩とのつながりが研究に深みと広がりを与えてくれます。大学院は「孤独と自由」(シェルスキー)を具現化したような世界です。そうであるからこそ、指導教員や他の大学院生との豊かな人間関係が、研究を支えてくれる土壌になります。

さて、教育方法学には「親学問」がない、といわれます。教育哲学には「哲学」があり、教育心理学には「心理学」、教育史には「歴史学」があるのに対し、「方法学」は存在しない、といった具合にです。このことは、しばしばネガティブな口調で語られますが、しかし教育方法学が特定の親学問に縛られない、多様な研究対象と方法を有する証左でもあります。そして筑波大学の教育方法学研究室では、これこそが「自由」と並び「多様性」の風土を研究室に根付かせています。この研究室では、誰もが自分自身の研究関心と研究対象に集中し、さらにお互いの問題意識を尊重し合い、日々の研究に取り組んでいます。

自分の研究に自由に取り組み、他人の研究に敬意と寛容の意を持つこと――筑波大学教育方法学研究室の精神は、ここを巣立ったばかりの私の中に、研究者として「どうあるべきか」を刻み込んでくれています。

田中怜(育英大学・講師)

このページに関するお問い合わせは、お問い合わせフォームをご利用ください。
なお、カリキュラムや入試等に関する頻出質問については、「よくある質問」ページに回答例を示しております。こちらのページもご参照ください。